キンラン(白花)

これまで見たキンランの自生地とは別の自生地(自生地H)に出かけキンランを観察してきた。白花と評価できる花があった。何年も前に聞いた耳学問のようなものだが,キンランの仲間に非常に詳しいO氏の見解によれば,純白に近い花もないではないけれども,やや黄色の残る白色のものがキンランの白花だとのことだ。白花品でも唇弁の上部にある突起付近の赤色は残る。
ちなみに,ときどきキンランを掘り取る人があり,困ったものだと思っている。先日,自然観察の森に出かけたら,園内の遊歩道の脇で花を咲かせていたはずのキンラン1本が消えてしまっていた。誰かが掘り取ってしまったのだろう。悲しい。
自然観察の森は,市が管理する施設であり,敷地内の動植物の採取が明示で禁止されており,遊歩道のロープを越えてはならない旨の表示もあるから,その態様によっては,刑法に定める窃盗罪を構成する行為だと言える。

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一般に,丁寧に管理された広い森または林をもっており,間伐した切株付近に共生菌となるキノコがふんだんに出るような場所を所有しているのであれば,種子を散布して何年か待ち,発芽する可能性を期待できないわけではないけれども,キンランの植物体を掘り取って植えても必ず死ぬ。キンランには葉があるけれども,繁殖するだけの充実した地下部が形成された後,開花のために補助的に光合成をしているだけであり,基本的には(まるで肉食動物のように)共生菌から栄養分を吸収しながら静かに地下生活をしている期間の長い植物だ。
だから,植物と菌類に精通し,非常に特殊な設備・機器類を完備した無菌実験室を所有し,植物栄養学と関連化学を熟知しており,十分な資産をもっていて毎日遊んでいても暮らせる者でもない限り,栽培できないし,非常に運よく栽培に成功したとしても地下部のカルスのようなもの(細胞塊)を何年も見続けることになるだけで,結局,最後の最後まで花を見ることはないかもしれないので,そういう細胞塊が生きていることそれ自体に日々狂気する本当に好きな人でなければ,栽培できない。
地下部があるのだから地上部を掘り取っても大丈夫ではないかというと,そうではない。共生菌は,栄養源となる樹木等の養分を食いつくすと,当然のことながら,死滅する。そうなると,共生菌を栄養源としているキンランの地下部も衰退し,最終的には死滅する。だから,地上部に茎を出し,花を咲かせ,種子を稔らせ,風にまかせて種々を散布し,運よく共生菌のいる別の場所に到達できた種子は,そこで発芽し,分布域を変化させながら,種全体としては生存し続ける。キンランの仲間は,そのような特殊な生態をもっている。
遊川先生などによる近年の調査研究の結果,発芽のための共生菌と成長のための共生菌とは異なる種かもしれないということが判明しつつある。仮にそうだとすれば,よほど運の良い種子でなければ,発芽し,成長し,地上部を出せるくらいまで地下部を充実させることができない。
以上の諸点は,ギンラン(Cephalanthera erecta)や">ササバギンランCephalanthera longibracteata)でも全く同じ。
それゆえ,キンラン,ギンランそしてササバギンランは,自生地で観賞するだけにしなければならない。

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